ジスモンチと須藤かよ。

ショーターのライヴレポを書いたので、前から書こうと書こうと思っていたジスモンチのライヴレポ(すごい前なんだけど)も書きまぁす。

自分は、敷居の高いライヴやコンサートというのが最近テーマになっている。
これはようするに、その会場にたどり着いて聴くまでが大変だ、というライヴやコンサートのことで、さらに会場に着いてからまたその会場特有の性質により大変な思いをすることがあって、それでさらに燃える(萌える)というものである。
これはまぁ簡単に言えば敷居が高ければ高いほど、それを乗り越えれば感動もひとしおだったりする、みたいなことだと思う。
別の言い方をすれば会場に行く時からイヴェントは始まっていて、それを楽しむ、という感じか。
最近では台風のまっただなかにコンサートに行った時に燃えた。
駅を降りて、雨と風がすごいので、タクシーに乗ろうと思ったらタクシーが10人ぐらいならんでいる。
行ったことのない会場ということもあって、開演時間の30分前である開場時間に到着するよう設定していたのでまぁ10人ぐらいすぐだろう、と思いきや!
タクシーが来ねぇ!さみぃ!
3〜5分に1台ぐらい静かにタクシーはやってきたが、10分、15分たっても4〜5人ぐらいしかすすまない。だけどしょうがないので、地道に待った。
んで開演30分前に到着予定が、開演後5分に到着。
あの雨と風の中(まぁ屋根はあったから風だけだけど)、タクシーを待つ30分近く自分が燃えていたのは言うまでもない。
演奏も素晴らしくて、帰りは雨も風もなく、感動もひとしおだった。
フライヤーやHP情報に不備があり、なんだかよくわからないので、会場に直接聞くというようなめんどくさいのもわりと燃えたりする。さぁ行くぞ!って感じがするのだ。

ということでこのジスモンチのコンサートも、電車にのってると広告があるとか、ネットで検索するとビシバシっと出てくるというわけではなく、けっこう業界の中での情報をキャッチするか、ネットを注意深く検索しないとコンサート情報が得られないという点でわりと敷居が高いのではないだろうか。
ジョアン・ドナートさんのコンサートに行った時も、その情報は手で配ってる(感じの)チラシでGETした。
ドナートさんが「100GOLDEN FINGERS」という、「なんでこのイヴェントにドナート出るんや?うれしいけど」、というジャズの大きめのイヴェントで来日していたところを地方のコアなブラジル系コミュニティの人々が独自にコンサートを企画していて、その独自系イヴェントのチラシに書いてあるところに電話をしてチケットをGETしたのだった。
そういうアナログな経緯を経て、会場にたどり着いたところ、はさみこみにジスモンチ来日のフライヤーがはさまっていた。へぇ〜と思い、mixiのジスモンチコミュで確認すると確かな情報のようだ。
ということで、ジスモンチマニアの須藤かよに連絡する。
須藤かよもその情報を知らなかったのだが、その情報をとても喜び、須藤かよが自分の分のチケットも予約してくれることになった。

ということでやっとジスモンチコンサート当日の話しになる。
会場は晴海トリトンにある第一生命ホール。
けっこうでかい現代的な建物。
複雑な構造で一瞬では入り口はわからない。そこでまたひそかに萌え始める。
だが、それほどではなかった。
すぐに待ち合わせ場所であるロビーにたどりつき、もう一人今日一緒に聴く夏秋文彦さんと合流。
須藤かよも到着して、ホール内へ。
中もけっこう複雑な構造。いたるところガラス張りで景色がよい。
ここで、うれしいサプライズ!同じサンバチームに所属している調律師と遭遇!
なんと今日のジスモンチのピアノの調律をその人がしているのだった!
実はこの日インド音楽の巨匠ザキール・フセインの公演もあって一瞬迷ったのだが、来てよかった!
この人はサンバチームではスルドを担当しているのだが、スルドが全体的によく鳴るように、調律師のプロフェッショナルな耳で個々のスルドのチューニングをかすかにずらし、心地良いうなりを導き出したりするいい人である。
自分は静かに興奮して「ジスモンチの調律ってどんな感じなんですか?」と1球目からストレートでストライクをとりにいく質問をした。
「いやぁ〜すごい細かいですよ。鍵盤のグラム数とかの話しを出してきて、とても細かい指定をしてくるんですよ。全体的にはとにかくパーカッシヴな感じが欲しいようです。」
ふむふむなるほど、へぇ〜。パーカッシヴなんすね。まぁでも聴いてみないとわからない。
開演前にそのピアニストの調律具合を聞けるということはめったにないので、楽しみだ。
ということでアゲアゲで着席。
すると須藤かよがそわそわし始めた、というかこのホールに到着してからずっとそわそわしている。
本人も「ジスモンチが聴けるのがうれしくてうれしくて興奮してわけわかんなくなってきた。」と言っている。
さらに「あぁ爪切りたくなってきた。岡野さん、爪切り持ってませんか?」と言い始めて、毎日爪切りを持っている自分は貸してあげた。
そういえばこの前ブラジルのサンバの先生に「ユージーン!爪切持ってぇる?」と道の真ん中で聞かれて、貸してあげたこともあった。「ユージーン!ありがとう!」その先生は指のささくれを切ることができてすっきりしていた。
自分の持っている爪切が人の役に立つというのはとてもうれしいものである。

ということで、前置きがそうとう長くなってしまったが、この日記の本題であるコンサートの感想です!(キリッ!)
前半はギターソロ。
前半はギターソロ、後半はピアノソロ。ということで、周波数的にはクラシックの周波数である。
ギターソロが始まる。うまい。う〜ん、うまい。
胸ぐらつかまれて殴られているようなうまさである。
あまりにうますぎて途中で眠くなってくる。
なんというかまぁ一人なんだけど、2〜3人で弾いているぐらいの勢いだ。
こんぐらいうまいとスッキリ寝れるな、と思ったりしているうちに大拍手で目が覚める。
う〜ん。心地よい音楽。
とにかく周波数に対する聴き方がものすごく発達している人なんだな、と思った。
なので、音楽的にはドローンをベースとしたモーダルや無調の音楽なので、あまり変化がないんだけど、ハーモニクスや特殊奏法や速くて複雑なリズムをまろやかな構造物として構築するので、しらける、という感じではない。
また、即興の楽しさやスリルというよりも鬼気せまる集中力ですごいクオリティの障氓「音を目指す、というのが今のこの人なのかなぁという感じがした。

後半はピアノソロ。
こちらは手の内やネタがわかるので、落ち着いて聴いてられない。
へぇ〜、こりゃたしかにパーカッシヴだ。
レガートっぽい曲想もけっこうパリパリしている。
使っている音域がわりと一定している。
ピアノにとって一番美味しい、低音域でベースをドヨーンと鳴らして、倍音列上にテンションをのっけて心地よい響きを出す、というショパンスクリャービンの感じではない。
左手はペダルによる長い時間の持続はあまりなく、ジャンプが多い。
これはベートーヴェンのむずかしい曲とかの感じで、一番弾きにくいのに、聴いている人にはそれほどむずかしいことをやっている風には聴こえないという泣けてくるパターンである。
右手も重音の連打や同音連打というこれまたピアノ奏法で一番むずかしいのに、聴いている人にはそれほどむずかしいことをやっている風には聴こえない奏法である。
あとは右手、左手の交差を多いのも特徴的だ。
とにかく全体的に響きは薄くして、ベートヴェン風のゴツゴツしながらも軽やかな音楽という感じだ。
違う面から言うとヴィラ・ロボスやナザレーというのはまさにこのような音楽であり、そういう意味では王道な演奏である。
とにかくこのピアノソロの後半はすげぇ練習してるんじゃないか、というのがとても感じられた。
この完成度の高さというのは、熟達した職人が、ずっとろくろを回してひとつの芸術作品をつくるみたいな磨かれてるぜ!感があった。
即興があったとしても即興性がすごい排除されてる感じがしたなぁ。

とにかく音が磨かれていて、ライヴハウスのライヴというよりは、美術館に飾っておきたくなるような「芸術」って感じだった。

ということで、ライヴ後、須藤かよは挙動不審状態を超えて恍惚状態に突入していた。
その須藤かよと夏秋文彦さんと一緒に月島へ。
ここまで来たら月島でもんじゃ食べるしかないっしょ!と自分は朝から決めていたのだ。
そのために、遅くまで開いているお店もHPで調べておいたのだ!(月島は早めにおわる店とわりと遅くまでやってる店がある。)
ここで、もんじゃを焼くのだが、夏秋さんがうまい!焼くのがうまい!
とにかくこの人は料理とかに関してもすごい人なのだ!改めて夏秋さんのすごさをしみじみと感じた。
ここで須藤かよは今日の感想を爆発状態で語り始める。
あの曲の中にあの曲がコラージュみたいに入ってたんですよぉ〜、とかあの一番好きな曲を演奏してくれたので、涙が出た、とウルウルしながらしゃべっていた。
須藤かよはわりとすぐ酔うのだが、その日もわりとすぐ酔って、話しはジスモンチの感想から「須藤かよの芸術について」に変わってきた。
「とにかく私は、ジスモンチみたいなああいうひとつの音を追求するような芸術家になりたいの!」と熱く語っていた。
それに対して自分は「そりゃもちろんジスモンチもいいけどさぁ〜。須藤かよは、須藤かよでジスモンチにできない独自の世界があるんじゃないのぉ〜。何もそんなにジスモンチさまさまにならなくてもいんじゃないかなぁ〜。とにかく須藤かよの音楽世界は素晴らしいよ!」と励ましまくった。
そういう感じで、もんじゃを焼きながら須藤かよを応援する会はますます盛り上がるのだった。